東京高等裁判所 昭和28年(う)1301号 判決 1953年6月18日
控訴人 原審弁護人 松本包寿 田所和十郎
被告人 石川憲賢
検察官 入戸野行雄
主文
本件控訴はこれを棄却する。
当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は弁護人松本包寿同田所和十郎提出の各控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。
弁護人松本包寿の控訴の趣意第一点について。
所論は原判決が没収した切出及びナイフ各一挺は、被告人が本件鶏を窃取するために使用したものではなく鶏を被告人の実力支配内に収め、これに対する窃盗行為が完了した後、その首を切るために使用したものであるから、犯罪行為に供した物として没収することはできないと主張するのである。よつて審究するに、記録によれば被告人は、鶏を窃取した後その現場又は現場附近において、該鶏を運搬しやすいようにするため切出又はナイフを以てその首を切つたものであることが認められる。
而して刑法第一九条第一項第二号にいう「犯罪行為に供した物」には、犯罪の構成要件たる行為自体に供した物の外、犯罪完了直後その結果を確保するための用に供した物をも含むものと解するのを相当とするところ、本件切出等が、被告人において窃取した鶏を運搬しやすいように処置するために使用されたもの、即ち、窃盗の結果を確保するための用に供せられたものであることは右説示のとおりであるから、原審が右切出等を、犯罪行為に供したものとして没収したのは正当であるというべく、論旨は採用することができない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 花輪三次郎 判事 山本長次 判事 関重夫)
弁護人松本包寿の控訴趣意
第一点原判決は没収してはならない切出、ナイフ等を没収した違法がある。
原判決は原判示犯罪事実第二(1) 乃至(27)の鶏の窃取行為を認定し押収の切出、ナイフ各一挺を没収したが原審公判調書及司法警察員作成の被告人の供述調書等に依れば右切出、ナイフは鶏を窃取する為に使用したものではなく窃取完了後鶏の血を絞り捨てるので首を切る為、即ち、被告人の実力支配内に帰した鶏の不用部分を除去し整理する為使用した丈であり記録を精査するも右切出、ナイフを判示窃盗行為に供し又は供せんとしたことを認め得る明確な証拠はなく其他に右没収を正当とする理由は見当らない。
(その他の控訴趣意は省略する。)